Every Day I Pray for Love: 草間彌生
オオタファインアーツは、草間彌生の新作・近作展「Every Day I Pray for Love」を開催いたします。弊廊では3年ぶりとなる本展では、2021年より精力的に取り組んでいる同名シリーズより48点のペインティングと2点のドローイングを紹介します。この展覧会は弊廊上海(5月~)、弊廊シンガポール(9月~)への巡回を予定しています。
草間彌生の70年の画業は、幾多の傑作(マスターピース)に彩られています。なかでも水玉や網目を反復的に用いキャンバスや空間を覆う手法は「水玉の女王」としての評価を揺るぎないものにしました。しかし21世紀に入り草間はこの評価を超えて新たな作品を生みだします。「愛はとこしえ」(2004-2007)と、続く「我が永遠の魂」(2009-2021)の二つの絵画シリーズです。前者は白いキャンバスに黒のマーカーペンで目や横顔、植物などの具象を描き、リン・ゼルバンスキーが「気まぐれでキュートだが消化しにくい」1 と評した明るさが画面を包みます。ペンから絵筆に持ち替え着手した後者ではあらゆる色が飛び交い、「生と死」「ミクロとマクロ」「戦争と平和」「具象と抽象」などの相反概念や形体が混然一体となって凝結しています。延べ900点にのぼるこれら二つの大絵画群を貫いた不断の創作意欲と集中力によって草間は自身の芸術表現の頂きをさらに高く押し上げました。
本展でご紹介する最新シリーズ「Every Day I Pray for Love」(2021年-現在)で草間はさらなる進化を遂げます。ネットやドット、横顔など代表的なモチーフが繰り返し現れるなか、自身の表現言語を更新する大きな特徴である「文」を登場させたのです。草間はしばしばマーカーとアクリルを織り交ぜながら画布上に一つないし複数の円を描き、その中に自身の詩やメッセージを日本語や英語で綴ります。筆運びの微妙な軽重や緩急の変化が草間の呼吸を生々しく伝えます。
|
|
|
こうした文は詩人でもある草間が自身の死を意識しつつ生を希求し、自己の芸術を世界に伝えたいという意志で満たされています。ひとつひとつの文を確かめ強調するかのように下線を引き水玉で囲む仕草がみられる一方、文意にとらわれない文字や線という造形要素として記号的に組み込まれる表現も見受けられます。作品の背面についても触れずにはおけません。ストレッチャーの格子により2つないし4つに分けられたマスの全てに自身のサインや題字、ゆったりとした曲線を繰り返し引き、空間を埋めてゆくのです。これらの作品の表裏には彼女が生涯を通じて描き続け右手で記憶してきたあらゆる種類の線が次々と現れます。
水玉や網目などの馴染み深い表現も豊かな変化を見せます。身体に定着した反復的な身振りによって幾千ものキャンバスをインフィニティネットで埋め尽くしてきた草間ですが、このシリーズにおいては黒いドットで縁取ったりネットの上から白いドットを重ねたりするなど新たな性格を付与しています。また静と動を行き来しながら細かく紡いだネットを、突然、強く荒々しい痕跡でグシャっとかき消すといった複雑な筆致も見受けられます。
2020年のパンデミック以降、自室で制作が定着し、作品サイズも生活空間に即したものとなるなかで生まれた今シリーズは、大成してなお、自己の枠を越えて芸術を創造したいという願望からいまも生まれ続けています。草間の生きる痕跡そのものである作品をこの機会にご高覧ください。
1 Zelevansky, Lynn. “Flying Deeper and Farther: Kusama in 2005.” Afterall: A Journal of Art, Context and Enquiry, no. 13 (2006): 54–62.

