Biography

マリア・ファーラは、フィリピンでイギリス人の父とフィリピン人の母のもとに生まれ、幼少期を日本・下関で過ごしました。15歳でロンドンに移住して以降は、英国で美術教育を受け、現在もロンドンを拠点に制作活動を行っています。このように多層的な文化的背景を持つ彼女の絵画には、異なる美意識や視覚的言語が交錯し、独自の語りの場を形成しています。

ファーラの作品は、日常のなかでふと目にした光景や、記憶のなかに沈殿する感覚の断片を出発点に、再構築されたフィクショナルな情景です。通りを歩く女性、窓辺の庭、鏡台に無造作に置かれた化粧品といった一見取るに足らない主題は、彼女の筆により異化され、絵画的空間のなかで静かに輝きを放ちます。それらの場面は具体性を保ちつつも、構図の大胆なトリミングや、描かれない余白によって詩的な曖昧さを帯び、観る者の知覚に揺らぎと広がりをもたらします。

技術的には、彩度の高い油絵具が、粗い織り目のリネンの暗色地に直接塗布されることで、独特の深みと発光感を生んでいます。太い輪郭線や書道的な「払(はら)い」、にじみやかすれ、そして時に緻密な描写が一画面のなかで共存することで、視線のリズムが生まれ、平面に時間的な流れを感じさせます。このような筆致の多様性は、東洋の筆墨文化や西洋の即興的ジェスチャーとのあいだに揺れ動きながら、ファーラ独自の視覚言語を形成しています。

しばしば彼女の作品は、日本的な構成感、つまり余白の活用や大胆なクローズアップといった視覚要素との親和性を指摘されますが、それは単なる形式的引用にとどまりません。彼女自身が語るように、「技法、色、主題において『東』の伝統(書道、マンガ)に『西』の新たな展開(生リネン、大判の油彩画)を掛け合わせる」という意識的実践のもと、文化間の視覚的遺産が彼女のなかで再編されているのです。ファーラの絵画は、そうしたハイブリッドな視点を通じて、「見る」という行為そのものの位相を問い直そうとする試みでもあります。

 

略歴
1988年 フィリピン生まれ
2012年 ラスキン美術学校 美術学士号取得
2016年 ロンドン大学スレード校 美術修士号取得
ロンドン在住

 

主な個展
「Girls Being Girls」オオタファインアーツ(上海、2023年)
「Overseas」オオタファインアーツ(東京、2021年)
「Spring」オオタファインアーツ(上海、2020年)
「Too late to turn back now」オオタファインアーツ(シンガポール、東京、2019年)

 

主なグループ展
「Home Sweet Home」国立国際美術館(大阪、2023年)
「Katja Farin, Maria Farrar, Esme Hodsoll, Alyina Zaidi」Alexander Berggruen(ニューヨーク、2023年)
「ケアリング/マザーフッド:『母』から『他者』のケアを考える現代美術」水戸芸術館現代美術ギャラリー(茨城、2023年)
「Xenia: Crossroads in Portrait Painting」Marianne Boesky Gallery - Chelsea(ニューヨーク、2020年)
「Ways of Seeing」Waltham Forest, London Borough of Culture(ロンドン、2019年)
「Known Unknowns」サーチ・ギャラリー(ロンドン、2018年)
「Pink Density」Clovis XV(ブリュッセル、2016年)

 

収蔵先
国立国際美術館(大阪)
横浜美術館(寄託)
サーチ・コレクション(ロンドン)
龍美術館(上海)
Longlati財団(上海)
AMCコレツィオーネ・コッポラ(ヴェネツィア)

Works
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