アイ・チョー・クリスティンは、版画技法のドライポイント技法やオイルバーを使ったペインティング、また彫刻やインスタレーション、サウンドアートなど、広範なメディアを使って多彩な表現をします。インドネシアの美術史の範囲で言えば、彼女は多元的で多様な芸術様式・コンセプトを発展させてきたポスト革新世代のひとりといえます。
アイ・チョーは、ドライポイント技法でつくり上げる版画作品が自身にとってはドローイングにあたると述べています。また、ドライポイント技法では針で金属板に直接印刻していきます。彼女にとって、この針はドローイングにおける鉛筆であり、金属板は紙と同様だといいます。版画作品が下絵だとするならば、彼女はこうした版画制作におけるネガとポジの空間配分のバランス感覚を根源に維持したまま、そこからさらに発展して、オイルバーを使った絵画作品を作り上げていくのです。
アイ・チョーのペインティングは、人間の本質的な感情部分をえぐりだしていきます。絵画面に視覚的に表象されるイメージはあくまで抽象的であり、その飛び散るような色彩の断片から、鑑賞者は憂うつ、もがき、痛み、あるいは逆に幸福感といった、人間感情の原理的な要素を感じ取ることができるでしょう。彼女の作品は、どこかインドネシアに根付く宗教文化や精神性を感じさせ、また彼女にとって私的なカタルシス効果を持っているように見受けられる一方で、同時に人類の感性の底にある普遍的なイメージが幾層にも「ペースト」されているのです。
また、そのようにして絵画で抽象的に表される感情は、彼女の過去のインスタレーションにおいては、もう少し具体的なものとして現れます。ギロチンや拘束具など、どこか苦しみ縛られる身体を通して飛び散る感情が、彼女のインスタレーションでは、曖昧に混ざり合いながらも表現されているのです。
こうした不確かで不定形な側面を強く持つアイ・チョーの作品は、論理という固定した型で捉えようとするとき、するすると抜け出ていってしまうような感覚を鑑賞者に与えます。それは近年の彼女の絵画に見られる、魚や昆虫などの生物のモチーフが、一見、無邪気な子供のようにダイナミックに動き回っているような印象を持っていることにつながっているのかもしれません。そうしたどこかキッチュな表象の中に、政治的に表明される段階以前の、人間の根本的な感情がうごめいています。そうした彼女の飛散する表現を通して、私達は精神の深い部分で、人間的なコミュニケーションの本質的なあり方を発見することになるでしょう。
アイ・チョー・クリスティンは、1973年インドネシア・バンドゥン生まれ。バンドゥン工科大学美術学部を卒業し、テキスタイルデザイナーとして働いたのち、2000年代にアーティストとしてのキャリアをスタートします。近年の展覧会に「Christine Ay Tjoe : Perfect Imperfection」SongEun Art Spaceソウル(2015年)、「The Famous One from Lucas」Third Floor - Hermès、シンガポール(2011年)「The Asia Pacific Breweries Foundation Signature Art Prize 2011 Finalists Exhibition」シンガポール・アート・ミュージアム(2012年)、「Future Pass」国立台湾美術館(2012年)など。
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Ay Tjoe ChristineBig Portion Only For The Red, 2013Oil on canvas165 x 150 cm
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Ay Tjoe ChristineSmall Flies and Other Wings, 2013Oil on canvas165 x 150 cm
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Ay Tjoe ChristineToo Many Fishes, 2013Oil on canvas170 x 200 cm 170 x 200 in
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Ay Tjoe ChristineI NEED YOUR HAND #2, 2009Acrylic on canvas135 x 170 cm
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無数の"ペースト"
アイ・チョー・クリスティン 2013年9月21日 - 11月9日 Tokyoアイ・チョー・クリスティン(1973年、バンドゥン生まれ)は、アジア諸国のマーケットで熱狂的な人気を誇るインドネシア現代美術界において傑出した女性作家です。初期にドライポイント版画の制作で培った鋭く、流麗で闊達な線描をタブローにおいても実現...Read more -
New Address, New Works
C・アイ・チョー、ジェイ・F・ティカール、F・マハムド、小池真奈美、竹川宣彰、M・ファーマンファーマイアン、Y・スギョン 2011年2月18日 - 4月2日 Tokyo六本木に舞い戻ったオオタファインアーツは、2月18日より「New Address, New Works」と題し、ここ数年のあいだ私たちギャラリースタッフが巡り合った、新しいアジア作家を集めた展覧会を開催いたします。 遠くはペルシャからイン...Read more