故郷コルカタを離れ、現在はニューヨークで制作するリナ・バネルジーは、彫刻、インスタレーション、ドローイングを中心に、多文化性、移民性、ジェンダー、帝国主義といったテーマを鮮やかで複雑な視覚言語で表現してきたアーティストです。理系のバックグラウンドを持つ彼女は、材料や構造に対する細密なアプローチと、ポエティックかつ批評的な視座を融合させながら、1990年代後半より一貫して「境界をまたぐ身体と物語」に焦点を当ててきました。
バネルジーの初期作品は、透明なプラスチック、貝殻、羽根、ビーズ、インドやアフリカの装飾品といった、植民地的歴史とグローバルな交易を想起させる素材を用いて、幻想的で異形の女性像や動植物のような彫刻を生み出しました。これらの作品群は、博物館的な収集や民族誌的分類を批判的に再構成するものであり、同時に「異国的」であることの魅惑と暴力をともに露呈させています。
2000年代半ば以降、彼女のインスタレーションはより空間的なスケールを獲得し、観客の身体を巻き込む没入型の体験へと進化しました。たとえば、絢爛な布やガラス、工業素材を編み上げた巨大な生物のような構造物は、神話、科学、フェミニズム、移民の語りを複層的に交差させながら、空間全体を変容させる力を持っています。タイトルにはしばしば長く詩的な文章が用いられ、作品そのものが言語と視覚の間を漂う存在となっています。
2010年代に入ると、彼女のドローイング作品も注目を集めるようになります。インクや水彩によって描かれたこれらの作品は、身体の断片、動植物、建築モチーフなどが繊細に交錯し、彫刻とは異なる親密さで、彼女の宇宙観を示しています。またこの時期には、自身の移民体験とアジア系アメリカ人としての複雑な立場をより明確に打ち出す作品も増えており、言語、身体、国籍といった固定的な枠組みを越境する視点が一層明瞭になっています。
2018年から2019年にかけては、ペンシルベニア・アカデミー・オブ・ファイン・アーツ(PAFA)とサンノゼ美術館によって主催された大規模な回顧展「Make Me a Summary of the World」が開催され、彼女の25年以上にわたる実践が包括的に紹介されました。この展覧会を通して、バネルジーの作品がいかにして「ポスト・コロニアル以後」の世界を視覚的に批評してきたかが、改めて評価されています。
彼女の作品は、アジア、アメリカ、ヨーロッパの主要美術館・ギャラリーで広く紹介されており、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ホイットニー美術館、サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)、Tate、Centre Pompidouなどにコレクションされています。
略歴
1963年 インド・コルカタ生まれ
ケース・ウェスタン・リザーブ大学にて材料工学を学ぶ
1995年 イェール大学美術学部修士課程修了(MFA)
ニューヨーク在住
主な個展
「Make Me a Summary of the World」フリスト美術館(ナッシュビル、2021)/UCLAファウラー美術館(ロサンゼルス、2020)/サンノゼ美術館(2019)/ペンシルバニア美術アカデミー(フィラデルフィア、2018–2019)
「Viola, from New Orleans Ah New York she flew…」Aicon Gallery(ニューヨーク、2016)
「Disgust」Galerie Nathalie Obadia(パリ、2014)
「Tropical Urban」ギメ東洋美術館(パリ、2011)
主なグループ展
第57回ヴェネツィア・ビエンナーレ(2017)
第56回ヴェネツィア・ビエンナーレ(2013)
釜山ビエンナーレ(韓国、2016)
「Greater New York」MoMA PS1(ニューヨーク、2015・2005)
第7回アジア・パシフィック・トリエンナーレ(オーストラリア、2012)
ヨコハマトリエンナーレ(2011)
ホイットニー・ビエンナーレ(2000)
主な収蔵先
ポンピドゥー・センター(パリ)
ルイ・ヴィトン現代美術財団(パリ)
ホイットニー美術館(ニューヨーク)
サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)
ペンシルバニア美術アカデミー(フィラデルフィア)
サンノゼ美術館(カリフォルニア)
ブルックリン美術館(ニューヨーク)
キラン・ナダール美術館(ニューデリー)
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