草間 彌生

草間彌生（Yayoi Kusama）
1929年、長野県松本市生まれ。草間彌生は、絵画、彫刻、インスタレーション、映像、パフォーマンス、小説に至るまで、多岐にわたるメディアを駆使しながら、「自己消滅（self-obliteration）」という芸術的信条を一貫して探求してきた、戦後日本を代表する前衛芸術家です。

幼少期より幻視や幻聴を経験し、それらのヴィジョンを網目模様や水玉といった反復的モチーフとして作品化するようになります。1957年に渡米後、ニューヨークのアートシーンで活動を本格化。初期のネット・ペインティング（Infinity Net）や、布製の突起物で家具や衣類を覆うソフト・スカルプチュアを皮切りに、鏡や電飾を駆使した没入型インスタレーション、裸体によるストリート・ハプニングなど、形式を越えた表現を次々に展開。60年代のポップアート、ミニマルアートといった文脈とも交錯しながら、草間は自らの身体性と内面世界を起点とする特異な実践を確立していきます。

帰国後も創作は止まることなく、特に2009年に開始した絵画シリーズ《わが永遠の魂（My Eternal Soul）》では、12年の間に800点以上の作品を制作。鮮やかな色彩と象徴的モチーフを用いながら、自身の心象世界と宇宙的イメージを融合させるような絵画空間を築き上げました。2021年からは《毎日愛について祈っている（Every Day I Pray for Love）》と題した新シリーズに着手するなど、90歳を超えてなお精力的な制作活動を続けています。

草間の作品には、視覚的強度だけでなく、反復による没入感、内面と外界の境界の消失、存在の拡張といった体験的側面が顕著です。彼女のインスタレーション作品、特に《Infinity Mirror Room》シリーズは、世界各地の美術館で長蛇の列を生み出すほど圧倒的な支持を集めており、その詩的かつ執拗な世界観は、現代における「見ること」「在ること」の根源を問いかけています。

略歴
1929年　長野県松本市生まれ
1957年　単身渡米、ニューヨークで活動開始
1973年　帰国後、東京を拠点に制作を継続
現在　　東京在住

主な個展
「Yayoi Kusama: 1945 to Now」M+、香港（2022-2023年）
「Yayoi Kusama: Infinity Mirror Rooms」テート・モダン、ロンドン（2021年〜）
「草間彌生　わが永遠の魂」国立新美術館、東京（2017年）
「Yayoi Kusama」ポンピドゥー・センター、パリ（2011年）
「Yayoi Kusama」ホイットニー美術館、ニューヨーク（2012年）

主な収蔵先
テート・モダン（ロンドン）
ポンピドゥー・センター（パリ）
ニューヨーク近代美術館（MoMA）
M+（香港）
ロサンゼルス・カウンティ美術館（LACMA）
草間彌生美術館（東京）