ナイト・パリ: チェン・ウェイ

Overview

このたびオオタファインアーツでは、チェン・ウェイ個展「ナイト・パリ」を催す運びとなりました。北京をベースに活動するチェン・ウェイにとって、今展覧会が日本での初個展となります。これに先駆け、今年7月には弊廊シンガポールスペースにて個展「ヌーン・インソムニア」を開催しました。シンガポール展が2006年から現在までの作品12点を一堂に集めた回顧展であったのに対し、今展は彼が昨今関心を向ける「夜の都市空間」がテーマの新作を中心に据えた展示となります。

中国で80年代生まれを意味する「80後」世代。その代表作家のひとりであるチェン・ウェイは、写真を主な表現手法としながらも、「写真らしからぬ」イメージを作り出すことによって従来の表現技法を塗り替えてきました。チェンの作品はどれも西洋の静物画のような質感と構図を持ち、映画のワンシーンのように、静寂につつまれた詩的な一瞬を捉えています。

しかし、チェン・ウェイの作品はそのフィクションめいた技巧だけによって成り立っているのではありません。注目すべきはその内容です。彼は急変を遂げる中国社会に対して鋭い視線を投げかけています。展覧会タイトル「ナイト・パリ」は、今回出展される同名の作品からとられたものです。作品中央にはさびれたカラオケ店が見えます。人気がなく、地面は濡れ、ネオンで書かれた店の名前だけが漆黒の中で煌々と光っています。この店の名前こそが「ナイト・パリ」なのです。

中国大都市圏では空前の不動産投資ブームと農村部から流入する労働者で都市空間が劇的に変化しています。入居者のいない空虚な大規模集合住宅は、都市住人の深層心理を映す空間であるといっても過言ではないでしょう。そして、過度に甘美なイメージで名づけられた建物名や店舗名が都市のあらゆるところに現れています。このカラオケ店「ナイト・パリ」もきっと、オーナーの期待を担って開業したのちに流行が去り閉店したか、そもそも開くことなく見捨てられたものかもしれません。

新しい建物につけられた名前―それは中国人がこれからの生活に対して抱く過大な希望を表しているのだとチェンは語ります。実態から乖離した成長経済の波にもまれ、先行きの不透明さに不安を抱きながらも、中国で創作活動を続けるチェン・ウェイならではの視点だと言えるでしょう。今回の展覧会では、「ナイト・パリ」の他に夜の都市空間を主題とした作品をあわせて展示いたします。この機会にぜひご高覧くださいますようお願い申し上げます。

チェン・ウェイ(陳維)
1980年中国浙江省生まれ、現在は北京を拠点に活動。主な個展に、「Chen Wei: In the Waves」Chi K11 Art Museum、上海(2015)、「Chen Wei: The Stars in the Night Sky are Innumerable」Australia China Art Foundation、シドニー(2014)、 「漠然の索」ヨコハマ創造都市センター、横浜(2011)など。また、「China 8, Works in Progress, Photography in China 2015」 Museum Folkwang、エッセン、ドイツ(2015)、「Performance and Imagination: Chinese Photography 1911-2014」Stavanger Art Museum、スタヴァンゲル、ノルウェー(2014)などグループ展にも多数参加。主な所蔵先にUllens Center for Contemporary Art(北京) 、Yuz Museum(上海)、K11 Art Foundation(香港)、Rubell Family Collection(マイアミ)など。

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