インタビュー:さわひらき

  • Hiraki Sawa, Courtesy of Ota Fine Arts
  • オオタファインアーツ東京で、4月3日まで開催の展覧会「/home」と、オオタファインアーツ上海で、4月30日まで開催中の展覧会「Hiraki Sawa and SHINCHIKA」にて、新作のビデオ作品《/home》と、同シリーズのドローイングの展示を行っている、さわひらき。今回は、さわに《/home》のシリーズの制作の背景についてインタビューを行った。

     

    展覧会「/home」についての詳細は、こちらをご覧ください。

    また、展覧会「Hiraki Sawa and SHINCHIKA」についての詳細は、こちらをご覧ください。

  • さわひらき:アーティストインタビュー

  • ― 《/home》を作った動機を教えてください。

    デビュー作である《dwelling》(2002)を制作した後も、何度か飛行機を飛ばす作品の制作を試みましたが、なかなか納得のいく作品に仕上げられないということが続いていました。そんな中で、2017年に自分が育った家を引き払った際に、記録として残しておこうと撮影をした映像があり、《dwelling》から約20年の歳月を経て、もう一度、自分の家で飛行機を再演してみようと思ったのが最初のきっかけです。作家としてのキャリアを築くきっかけともなった飛行機というモチーフや、幼少期の記憶を思い浮かべながら形にした作品が、今回発表した《/home》です。《dwelling》と全く同じものではないですが、部屋の構造を思い出しながら、昔の自分の家を飛行機の軌跡、航路でなぞってくような感覚で制作をしました。

     

    ― 制作の最中は思い出に浸っているのでしょうか?それともワクワクしながら制作していたのでしょうか?

    僕が基本的に作品を作っていて自分が盛り上がるときは、幼少期に想像を巡らせながらおもちゃで遊ぶような感覚になった時で、そういう時は、時間を忘れて作品が作れるようになります。5歳あたりの子供の絵というのは上手いと言われているのですが、自分が作品を表現する際には、想像力やその作品を作るときの意識といったものが、いかに子供であることができるか、ということが大切だと考えています。自分の娘が幼いときに描いていた絵をみると、色使いや構図など、今の自分には描けないと思わされるような驚きがあります。僕は作品を20年間作り続けてきましたが、頭の働かせ方が子どもの遊戯のような感覚になると楽しくなります。

  • ― ニュータウン的な幻想とはどういったものか教えてください。

    ニュータウンや新興住宅に住むというのは、自分にとってはとても自然なことでした。生まれ育った家がなくなるという経験をする前は、家はこう、家族はこう、社会とはこういうものと思っていましたし、自分たちの家がなくなるというのは悲しいこと、少し寂しいことと感じていました。しかし、そもそも歴史的に見れば私の実家や、それが位置した新興住宅街自体も元はそこにはなかったものです。新興住宅というのはすごく近代的な幻想で、その仕組みは最近になって人々が作り出したものです。僕の友人で祭りの話をずっとする人がいるのですが、その祭りというのは1500年くらい続いているそうです。それに対して、自分が子供のころに行っていた町内会の祭りは、おそらく始まってから百年も経っていないと思います。つまり彼が言っていた祭りと自分が思っていた祭りとは違うものだということです。それは、自分が「こうだ」と思っていた認識が崩れ始めるような感じで、疑問なく新興住宅地に住んでいたけれども、新しくたくさんの人が一箇所に住むという新興住宅地の構造はできてから150年も経っていません。今の流行なのかもしれないけれど、新型コロナ以降、「今までこうだったから今後もそうなる」というのは、俯瞰してその構造を注意深く見てみると、本当はそこまで確実なことではないということに気が付きました。その(幻想と現実の)差異に興味があり、新興住宅地の構造について考えています。

    以前から、時間性、場所性というものを意識しながら制作を続けていますが、それと同時に物事の見方や見え方を変えることで、新たに見えてくる別の世界というのを表現しています。例えば、飛行機が部屋の中を飛んでいるというのは、飛行機は(普通は)部屋の中を飛ばないけれども、空からずらして部屋の中に入れることによって、人の見方を少しずらすことになります。自分にとっての新興住宅地というのは、いままで当たり前だと思っていた物事ついて考え直すこと、それによって視線がずれることの象徴で、それは「時間のずれ」や「場所のずれ」ということにも関連していて、自分の興味の根底にあるものです。

     

    ― 今回のシリーズは幻想が大きなキーワードとなっていて、そのシンボルとして布のベールのモチーフがドローイングによく出てきます。

    一時期、写真史を独学で勉強していたのですが、19世紀末からの写真の流れで心霊写真というのがあります。ルネッサンスの絵画などでは天使や神様が降りてくる場面は、霧や雲のなかから現れるように、ぼやかされた表現となっていることが多いのですが、それが、心霊写真になったときには薄くて透けているコットンの布が使われていました。最近、何か一部をぼやかすときにモチーフとして布のベールをよく使います。僕のやっていることは基本コラージュなので、ベールをつけることですでにある何かを別の見え方に変えるような付け方をする。シューレアリストがやっていたことと一緒です。

  • ―ドローイングに登場するモチーフはどうやって選んでいますか?

    僕は意味を表現するために作品を作ってはいません。灯台やラッパ、飛行機もそうですが、普段の生活で気になるモチーフを見つけた際にはまず取っておいて、後で作品を作るときにコラージュの材料にします。自分がすごく影響を受けたものとしてよく安部公房を挙げるのですが、僕が高校のときに聞いた話では、安倍公房の文章というのは、家から八百屋に買い物に行って、家に帰るまでの間に使われるような言葉しか使わないそうです。買い物に行っているときに思いついた言葉を、小さな紙片に書きためておいて、そのたくさんある小さな言葉のくずを元にしてまた小説を書くそうです。作品に出てくるモチーフを選ぶ理由は、安倍公房的に言えば、家から八百屋に買い物に行っている間に見たものです。

     

    ―オオタファインアーツで現在展示しているのはビデオ作品と平面作品ですが、今後取り組んでみたい作品ややってみたい展示などはありますか?

    映像はもちろんだけど、モビールを作るとか、別のメディアで絵を描いてみるとか、平面と立体を合わせた2.5次元的な作品を作ってみるとか、またそれらで構成されるインスタレーションをやってみたいです。今の展示はシンプルに見せているけれど、もうちょっとメディアを混ぜ合わせた、しかも今までの表現とは違う素材や次元で作られたインスタレーションをやってみたい。そして、その出来上がったインスタレーションを自分で見て、物語も書いてみたいと思います。また、今は今年の秋に予定されている奥能登芸術祭に向けても制作をしています。

  • ARTWORKS

    • Hiraki Sawa /home, 2021 Single-channel HD video with stereo sound 9'24" Edition of 8 plus 2 AP
      Hiraki Sawa
      /home, 2021
      Single-channel HD video with stereo sound
      9'24"
      Edition of 8 plus 2 AP
    • Hiraki Sawa /home (tower), 2021 Ink on paper, Artist's seal 29.7 x 21 cm
      Hiraki Sawa
      /home (tower), 2021
      Ink on paper, Artist's seal
      29.7 x 21 cm
    • Hiraki Sawa /home (shopping cart), 2021 Ink on paper 33.5 x 24.5 cm
      Hiraki Sawa
      /home (shopping cart), 2021
      Ink on paper
      33.5 x 24.5 cm
    • Hiraki Sawa /home (new town #4), 2021 Ink on paper 33.5 x 24.5 cm
      Hiraki Sawa
      /home (new town #4), 2021
      Ink on paper
      33.5 x 24.5 cm
    • Hiraki Sawa /home (new town #5), 2021 Ink on paper 33.5 x 24.5 cm
      Hiraki Sawa
      /home (new town #5), 2021
      Ink on paper
      33.5 x 24.5 cm
    • Hiraki Sawa /home (hands), 2021 Ink, watercolor on paper 33.5 x 24.5 cm
      Hiraki Sawa
      /home (hands), 2021
      Ink, watercolor on paper
      33.5 x 24.5 cm
    • Hiraki Sawa /home (new town #6), 2021 Ink on paper 33.5 x 24.5 cm
      Hiraki Sawa
      /home (new town #6), 2021
      Ink on paper
      33.5 x 24.5 cm
    • Hiraki Sawa /home (new town #2), 2021 Ink, pencil on paper 33.5 x 24.5 cm
      Hiraki Sawa
      /home (new town #2), 2021
      Ink, pencil on paper
      33.5 x 24.5 cm
    • Hiraki Sawa /home (hands), 2021 Ink, pencil, watercolor on paper 33.5 x 24.5 cm
      Hiraki Sawa
      /home (hands), 2021
      Ink, pencil, watercolor on paper
      33.5 x 24.5 cm
    • Hiraki Sawa /home (new town #1), 2021 Ink, pencil on paper 33.5 x 24.5 cm
      Hiraki Sawa
      /home (new town #1), 2021
      Ink, pencil on paper
      33.5 x 24.5 cm
    • Hiraki Sawa /home (salute), 2021 Ink on paper 33.5 x 24.5 cm
      Hiraki Sawa
      /home (salute), 2021
      Ink on paper
      33.5 x 24.5 cm
    • Hiraki Sawa /home (new town #3), 2021 Ink, pencil on paper 33.5 x 24.5 cm
      Hiraki Sawa
      /home (new town #3), 2021
      Ink, pencil on paper
      33.5 x 24.5 cm
    • Hiraki Sawa /home (pine tree), 2021 Pencil on paper, Artist's seal 102 × 66 cm
      Hiraki Sawa
      /home (pine tree), 2021
      Pencil on paper, Artist's seal
      102 × 66 cm
  • アーティストについて

    さわひらき、1977年石川県生まれ。2003年ロンドン大学スレード校美術学校彫刻科修士課程修了。ロンドン在住。おびただしい数の模型の飛行機が部屋を飛び交う映像作品《dwelling》(2002年)で若手作家の登竜門であるEast International Awardを受賞。初期作品はこの飛行機が飛び交う作品と同じように室内で展開され、現実ではありえない出来事や風景がモノクロの映像に収められている。近年は映像と展示空間が互いに干渉しあうような作品に取り組んでいる。近年の主な個展に「MEMORIA PARALELA」ナバーラ大学美術館、スペイン(2019年)、「Latent image revealed」KAAT神奈川芸術劇場(2018年)、「Under the Box, Beyond the Bounds」東京オペラシティアートギャラリー(2014年)。その他、「開館30周年記念展 ふたつのまどか ー コレクション×5人の作家たち」DIC川村記念美術館(2020年)、「第11回恵比寿映像祭」東京都写真美術館(2019年)等、国内外のグループ展や国際芸術祭に多数参加。