Pink: ブブ・ド・ラ・マドレーヌ、マリア・ファーラ、半田真規、草間彌生、嶋田美子、チェン・ウェイ、ミン・ウォン、¥ouada(ヨアダ)
冬季休廊: 2025年12月28日(日) – 2026年1月5日(月)
オオタファインアーツ東京では、グループ展「ピンク」を開催いたします。本展は、ギャラリーに所属するアーティストたちによる“ピンク”を用いたさまざまな表現を紹介するものです。
女性性や可愛らしさと結びつけられてきた一方で、主体性、連帯、アイロニー、抵抗など、文化的・社会的文脈の中で多面的な意味を帯びてきたピンク。本展では、フェミニニティとクィアネス、享受と葛藤、可愛さと抵抗、欲望と幻想といった幅広い視点が、作品群を通じて立ち上がります。
色彩を手がかりに浮かび上がる多様な視点と表現をご高覧ください。
嶋田美子 オオタファインアーツで開催された個展『おまえが決めるな!』(2023年)で、嶋田はピンクの♀マーク付きヘルメットで知られた1970年代の女性活動家グループ「中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合(中ピ連)」に焦点を当てました。権力から主体的に権利を勝ち取るべく直接行動を起こしたその活動を再評価し、女性の性と生殖をめぐる「自己決定権」を現代に照射することで、ピンクを“抵抗の色”として蘇らせました。世界各地で中絶権をめぐる攻防が続く今日、嶋田にとってのピンクは、半世紀前に中ピ連が示したように闘う態度と精神を表現する色と言えるでしょう。
チェン・ウェイ チェン・ウェイが長年探ってきたのは、急速に変化する中国社会における「より良い生活」への希求です。ライフスタイルが多様化するなか、新たな余暇や趣味の選択肢は、個人が自分の生をどのように組み立てていくかを示す指標にもなります。テニスというモチーフは、その象徴のひとつです。《Pink Bobble》(2021)において、鉄骨の硬質さと、ピンクのボールの柔らかな存在感は、いわば都市の現実と個人の願望、緊張と軽やかさといった両極を静かに同居させています。ここにおけるピンクは、社会の変化に伴って揺れ動く“生活の夢”を映し出し、控えめでありながら強い感情を湛えているように見えます。
¥ouada ネット文化やミームに着想を得て、スプレーペインティングを中心に現代の消費文化を戯画化してきたヨアダ。これまで彼は、高彩度で毒々しいピンクを象徴的に用い、欲望の加速や視覚的過剰といった消費社会のダイナミクスを可視化してきました。本展ではその語彙から距離を置き、暗く沈んだ「おだやかなピンク」へと移行することで、この色に潜む繊細な感情の層を探ろうとします。出品作では、ラバーダックや風船など作家にとって“無垢さ”を象徴するモチーフに、金属の硬質な質感が打ち込まれ、甘さを帯びたピンクに揺るがぬ強さ(=Steadfast tenderness)が立ち上がります。パーティーハットのハムスターが涙を流す作品では、戯画性と内面の揺らぎが同居し、感情の陰影が静かに浮かび上がります。《Two pleasures plus one (2)》では、耳や唇、舌など英語圏で俗に “pink parts” と呼ばれる柔らかな身体の部位がクローズアップされ、ピンクの陰影によって官能的に描かれます。こうした描写は、ピンクが歴史的に性的イメージと結びついてきたことを静かに想起させます。そこに金属のピアスが打ち込まれることで柔らかさが際立ち、強いボケによって身体は抽象的なフォルムとして浮かび上がります。
ブブ・ド・ラ・マドレーヌ 「なぜピンクなのか?」-日本には「桜色、桃色、朱鷺色」など多様な色名があるにもかかわらず、ある色を指す際に外来語である「ピンク」が圧倒的に多用されることへのモヤモヤから、ブブは新作の主題に「朱鷺」を選びました。朱鷺の羽根の色はとても印象的です。奈良に拠点を置くブブは、子どもの頃から正倉院展などを通して、シルクロードを経て伝わった宝物を身近に観察してきました。顔料・染料の歴史は、東西の文化交流の歴史でもあります。なかでも「色の名前」の歴史にブブは関心を持っています。また、朱鷺は、かつては絶滅の危機に瀕しながらも、中国や日本での保護により個体数が回復しつつあります。このことは、人間と動物の関係を考えるうえでも示唆的であるとブブは注目しています。
草間彌生 稀有なコロリストである草間にとって、ピンクは重要な色彩のひとつです。ピンクの衣装やウィッグで登場した時期もあり、その色は作品だけでなく作家像そのものにも強い印象をもたらしてきました。鮮烈なピンクのヴォイドに草間の象徴である赤い水玉が浮遊する《A Chat in the Universe》(2010)は、「わが永遠の魂」(2009–2021)シリーズ初期を代表する作品です。黒いフリンジや水玉に潜む横顔の線描が、抽象と具象、内なる世界と宇宙的スケールを柔らかく交差させています。一方、《Untitled》(1980年頃)は、化粧箱に櫛や鏡を収め、その全体をピンクの突起物で覆った作品で、「アキュミュレーション(集積)」シリーズに位置づけられます。無数の突起は強迫観念や死にまつわる恐怖を可視化し克服しようとする草間の主題を表しています。その恐怖心を転じるかのように、ここで用いられるピンクは、痛快な明るさを放っています。覆い尽くす手法は小型のマーシャル製アンプにも及び、アイコニックなロゴと水玉が組み合わさることで、ポップな象徴性を高めています。
マリア・ファーラ 多文化的な背景と日常から立ち上がる感情を、鮮烈な色彩と筆致で描き出すファーラ。彼女にとって絵画は、「自分の小さな身体や心に収まりきらない思考や感情」を扱う手段であり、具象と抽象を行き来しながら、人間存在に内在する“暗さ”と“甘さ”の両面を捉えようとする試みでもあります。かつて作品が「女性的すぎる」と評された経験を持つファーラは、フェミニニティを抑制するのではなく、自身にとって避けようのない表現言語として受け止めています。その一方で、世間が“女性らしい”と捉えるリボンや菓子といったモチーフを、一歩引いた「観察者」の視点で扱い、そこに潜む視線の構造(male gaze)を想起させる視線―を作品内に取り込んでいます。甘美な色調や気に入りのモチーフ、アジアでの記憶、ロンドンの日常の緊張感など、多様な要素が複雑に混ざり合いながら、彼女の絵画はつねに“自然な自己の発露”として立ち現れます。
ミン・ウォン ヴィデオやパフォーマンスを中心に活動するミン・ウォンは、ワールドシネマや大衆文化を独自に引用・再演し、真正性や他者、ジェンダーといったテーマを探求してきました。2019年にプロジェクト・スペース「ASAKUSA」における個展『偽娘恥辱㊙︎部屋』で発表された本作では、ウォン自身が架空のポルノ映画女優として登場します。この作品でウォンは、1960年代に登場した「ピンク映画」やその人気を受けて制作された「日活ロマンポルノ」の映像言語と、現代のデジタル動画の制作手法を組み合わせ、時代やメディアを横断した「再演」を試みます。スマートフォンでの視聴を前提としたウォンのポルノ映像は、オンラインメディアを通して欲望、悦楽、秘め事が視聴されるようになった時代の変化を反映しています。男性であるウォンが男性の欲望の対象である女性像を演じるのは、ピンク映画に見られる男性ヘゲモニーをクィア化する試みであることはもちろんのこと、2010年以降SNSを通してアジアのサブカルチャーに拡散した異性装者(日本の「男の娘(おとこのこ)」、中国語の「偽娘(ウェイニアン)」など)の存在を示唆するものでもあります。
半田真規 ― バイパスの橋脚は、思っていたよりずっと高かった。 | 潮はもうずいぶん満ちていて。 | ふと我に返ると、道を歩いていたはずが | 海の中からそれを見上げていた。―
半田真規の二連作《Whales》(2021年)は、作家の自宅近くの海岸にクジラが打ち上がった実体験を出発点としています。左に海岸、中央に車の走らない道路、右に海中に立つ人物を配置し、左上にはこの円錐が月のように描かれています。14メートルほどのクジラを目の当たりにした作家は、その巨大さと、人間の尺度とは異なる“独自の時間”を感じたといいます。打ち上げ地点には多くの人々が集まり、半田にはその情景が古代から続く普遍的な光景のように映りました。しかし、群衆を少し離れた場所から眺めたとき、孤独や隔たりの感覚が生まれ、その気持ちを象徴する存在として海の中の人物を描いたといいます。この人物は、クジラそのものの姿とも重ね合わせられています。高彩度のピンクは、日常(道路)から非日常(海中)への意識の反転の瞬間を、静謐かつ劇的に描き出しています。
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Yayoi KusamaA Chat in the Universe, 2010Acrylic on canvas194 x 194 cm -
Maria FarrarSt. Agatha Cake, 2025Oil on linen180 x 130 cm -
Yoshiko ShimadaRight of Self-determination Red knots, 2023Oil, vernish, thread, canvas41 x 31.8 cm -
Chen WeiPink Bobble, 2021Archival inkjet print150 x 120 cmEdition of 6 + 2 A.P. -
Ming WongFake Daughter’s Secret Room of Shame, 2020Mixed media installation featuring 3-channel videoDimension variableEdition of 3 -
¥ouadaHomesickness 2, 2025Acrylic on canvas60 x 60 cm -
BuBu de la MadeleinePink is the color of the Japanese crested ibis_001, 2025Acrylic on canvas41 x 27.3 cm -
Masanori HandaWhales, 2021Watercolor, oil pastel on paper147.5 x 16 cm [image] 153.3 x 22 cm [paper]
146.9 x 16 cm [image] 150 x 22.2 cm [paper]
Set of two -
Yayoi KusamaUntitled, 1980Steel can, found objects, resin clay, lacquerLid (8.5 x 28 x 20cm)
Box (12 x 28 x 24cm) -
¥ouadaTwo pleasures plus one (2), 2025Acrylic on canvas60 x 60 cm -
Maria FarrarStands Like a Shakuyaku, Sits Like a Botan, Walks Like a Lily, 2025Pastel on paper42 x 29.7 cm

